一次産業と聞いてまず浮かぶのが農業や漁業ですが、日本には山が多く、
木材を資源としており、林業も古くから日本を支えている重要な産業の一つです。
木材資源需要の減少や、輸入材に押されている林業ですが、その役割は木材を作るだけではありません。
ここでは林業の必要性や重要性を見ていきましょう。
■林業の必要性・重要性とは?
「林業」と聞くと、単純に木を育てて木材を作るというイメージですが、
長い時間をかけて「木を育てる」という過程において、持続可能な森林生態系を生み出す重要な産業です。
例えば、林業生産活動の中で行われる、植栽、保育、間伐、伐採などの施業は、
病虫害中の防除や、森林火災防止、土砂災害防止、水源の涵(かん)養、保健休養の場の提供など、
公益的機能につながります。
また、林業は木材を製造する過程で、大気中の二酸化炭素を吸収して光合成を行うため、
大気中の二酸化炭素濃度の上昇を抑制できるという特性をもっています。
このように環境への負荷が極めて少ない林業は、人々の暮らしにかかせないものなのです。
■土砂災害を防ぐ森林の「保水力」とは
植林された木は成長すると共に密集していき、太陽の光を遮ってしまいます。
暗い森では下草が生えず、木も細長くヒョロヒョロと成長し、しっかりと根を張ることができません。
このような森林は根に水を蓄えることができないので、雨水によって土壌が崩壊し、土砂災害を起こす恐れがあります。
それを防ぐためには間伐をして保水力を上げる作業が必要となります。
間伐とは10年~20年前後まで育った木の本数を減らし、光が差し込み地表が草で覆われるような環境を整えます。
定期的に間伐を行うことで木はスクスク育ち、地中にしっかり根を張った健全な森林を作ることができます。
根だけでなく地表にはコケが生え、落ち葉や枝などが堆積した栄養豊富な腐葉土層となり、
水を蓄え、ろ過するのに最適な環境も生み出します。
これが森林のもつ「保水力」で、蓄えらた水は少しずつ染み出すので土砂災害防止に役立ちます。
■森林の公益的機能とは?
木材を生産する課程で木を間引く間伐などを正しく行うことにより、森林の「公益的機能」が守られます。
・水源涵養機能
森林に振った雨や雪などの降水はすぐに川に流れ出ることはなく、土壌にゆっくりとしみこみます。
土壌にはコケや下草などの他、落ち葉や枝などがあり、微生物をはじめとした多くの土壌生物が生息しています。
これらの腐葉土層は雨水をたっぷり含み、ゆっくりろ過して川に流れ、いわゆる「おいしい水」を生み出します。
きれいでおいしい水は健全な森林から生まれているのです。
・土砂災害防止機能
適度に間伐が行われ下草や腐葉土層もたっぷりある森林では雨が降っても土壌に保水力があるため、
土壌の浸食や流出が抑えられます。
また、健全な木の根には土壌をしっかりと固定する役割もあり、それも土砂災害防止に役立っています。
・生物多様性保全機能
森林には鳥類や昆虫類をはじめとする多くの野生動物が生息、生育しています。
動物たちは、草原などに比べると木々の間に隠れやすく、木陰によって直射日光を避けることもでき、
また、森林にはエサとなる木のみや昆虫が多く、野生動物が生きるのに最適な環境となっています。
間伐によって森林を健全な状態にすることで遺伝子や生物種、
生態系の保全機能を保つことが可能となるといえるでしょう。
・地球環境保全機能
大気中の二酸化炭素濃度が上昇する地球温暖化現象。
過剰な二酸化炭素は森林がもたらす光合成によって吸収され、貯蔵され炭素を固定します。
健全な森林があればあるほど大気中の二酸化炭素は減少し、
地球温暖化を防止する効果が期待されています。
このように林業は木材だけでなく健全な森林を生み出し、
公益的機能を果たすことにより、人々の飲む水や生活環境はもちろん、
生態系や地球まで守ることができる非常に重要な役割をもつ産業といえるでしょう。